東京地方裁判所 平成7年(レ)27号 判決 1995年7月24日
控訴人
吉田登貴男
右訴訟代理人弁護士
宇都宮健児
同
木村裕二
被控訴人
ファインクレジット株式会社
右代表者代表取締役
家富恒志
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
別紙「請求の原因」記載のとおり(但し、「債権者」とあるのを「被控訴人」に、「債務者」とあるのを「控訴人」に、それぞれ訂正する。)。
二 請求原因に対する認否
全て認める。
三 控訴人の主張
1 控訴人は、平成七年二月一〇日に東京地方裁判所に破産宣告及び同時廃止の申立てをした。
2 しかるに、同時廃止事件において、破産申立から免責許可・不許可の決定がなされるまでの間に破産債権者の個別的権利行使が認められるとすれば、①破産宣告前においては否認権行使の対象となるべき弁済又は執行行為が作出され、②破産宣告後においては新得財産を対象に執行が行われ、③免責許可・不許可の判断がなされる以前に特定の債権のみ満足を得ることとなり、破産法の固定主義や債権者間の平等に反するのみならず、管財人選任事件との間に著しい不均衡を生じ、また免責制度の趣旨が没却されることになる。
3 よって、破産申立後免責許可・不許可の決定がなされるまでの間の本件被控訴人の個別的権利行使は許されない。
第三 当裁判所の判断
一 請求原因事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、控訴人の主張について判断する。
1 被控訴人が、平成六年九月一三日、控訴人を債務者として原審裁判所に支払命令を申し立て、原審裁判所が同年一〇月三一日、被控訴人の右申立てを認溶する仮執行宣言付支払命令を発し、同年一一月九日、同命令が控訴人に送達されたこと、控訴人が、同月一四日、右支払命令に対し異議を申し立てたため、訴訟に移行し、原審裁判所が、平成七年二月七日、被控訴人の請求を認容する原判決を言い渡し、同判決が、同月一〇日、控訴人に送達されたこと、控訴人が同日、東京地方裁判所に破産宣告及び同時廃止の申立てをなし、ついで、同月一五日本件控訴を提起したことは、当裁判所に顕著な事実である。
2 控訴人は、固定主義及び債権者平等原則違反、管財人選任事件との不均衡などを理由として、被控訴人の個別的権利行使は許されない旨主張する。しかしながら、破産申立後破産宣告決定前においては、破産宣告による個別債権執行禁止という効果が未だ生じておらず、また、破産廃止決定確定後免責決定確定前においては、破産宣告による破産債権に対する破産的拘束が解かれ、右禁止の効果が消滅しているのであるから、いずれも個別的権利行使が禁止されることはない(最高裁平成二年三月二〇日第三小法廷判決・民集四四巻二号四一六頁参照)。このことは、同時廃止事件においても同様である。すなわち、同時廃止決定は、破産財団が破産手続の費用を償うに足りないと認められる場合に、破産宣告と同時に平等配当手続を放棄して破産的拘束を排除し、その結果、債権の回収については各債権者の個別的行使に委ねることを予定するものといえるから、この場合、結局は固定主義が作動しなかったといえ、管財人選任事件との不均衡が生じることもやむを得ないというべきである。また、免責との関係についても、破産法が破産者の免責を予定しない主義を採用している以上、免責手続と破産手続とは別個のものであり、免責許可決定に遡及効を認める旨の規定がない以上、右決定の確定以前になされた強制執行による弁済が免責決定確定により違法となる理由はない。また、免責制度は新得財産に属することとなった財産を破産者に保持させることを目的としているとはいい難いから、破産宣告後、免責許可決定確定までの間に新得財産に対し強制執行が行われたとしても免責制度の趣旨に反するものと解することもできない。したがって、右控訴人の主張は採用することができない。
請求の原因
1 (1) 契約の日 平成5年9月30日
(2) 契約の内容 債権者は、債務者の下記の購入代金を立替払する。
債務者は、債権者に対し、立替払金に手数料を加えた金額を分割して払う。
① 売主 日動火災海上保険株式会社
② 商品 積立普通傷害保険
(三) 連帯保証人 ――
2債権者が立替払をした日 平成5年10月1日
3
立替払金及び手数料
支払済みの額
残 額
614,434円
(うち手数料
96,274円)
564,634円
(最後に支払った日
平成 . . )
※明細は別表
49,800円
4 支払を催促する書面が届いた日(期限の利益喪失の場合)
平成6年7月20日
□分割金の最終支払期限( 年 月 日)の経過
5 解約の内容
債務者は、債権者への債務弁済の担保として、保険契約に基づく請求権に対し質権を設定し、債権者は、保険契約の解約及び精算に伴う保険料の返戻金を債務者に代って受領し、これを立替払金に充当するものとする。
※ 別表
内 訳
金 額
解約による立替金の返戻金
債務者支払分金
未経過手数料
497,550円
0円
67,084円
合 計
564,634円
三 以上のとおり、被控訴人の本訴請求は正当であるから、これを認容した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないものというべきである。よって、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官長野益三 裁判官玉越義雄 裁判官名越聡子)